九月のバラッド/狸亭
界―反骨とエロス−の叱咤
その巨大な詩人像のめくるめく虚実の祭典に酔った
台風一過の吉祥寺の夜はふけて生き残りたちが偲ぶ
自分たちの言葉によろこびながらきりもなく落下した
几帳面だからこそ放蕩へのあこがれがはげしくさけぶ
めぐる杯の中にゆれる「大通俗詩」の夢を愛でる
路地裏の芸術派と人生派のよっぱらいたちもおおかた
つかれてきて思い思い不人情なひとごみの中へ隠れる
例年よりひどい雨季の南国でおまえもどうやら職を得た
そんな手紙がとどいてかぼそい絆に思いをはせた
内田麟太郎の童話を読んでいたらコトバが人を弄ぶ
この天才はネコにだって人間のコトバをしゃべらせた
「楽しいから、楽しい!」まさにコトバの天下布武
いつのまにかこのおれもコトバの魔女につかまった
「愛してるから、愛してる」と思いこんで口遊ぶ
谺のように「愛しつづける」九月も駆け足ですぎさった
青い環礁の海原一瞬にしてまっしろ死楽の変り屏風
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