ハイビスカスと電気椅子/トノモトショウ
女は赤いハイヒールで
イキ過ぎた犬の敏感な夢々を踏み付け
涸れた涙に自涜の真意を知る
心配性の隣人が窓ガラスを透かして苦笑
電話帳の半分を乱読した思春期に
毛深い腕で抱かれた記憶はサララと灰へ
別離の発言は繰り返すほど哀れ
熟れた隙間に入り込む異形を拒めず気絶す
花開く夜には移り気な小節を闊歩し
きれいだね きれいだね 唄えば息も凍る
寄り添う人々の致命的な我欲の反復が
この世の形を明らかにしていくのだろうか
湿った部屋には萎れたハイビスカス
金星のざわつく歪みで
酔いどれたちは見知らぬ影に脅え
百度目の絶望がマーブルの雨を降らせる
煙草屋の看板がやけに目障り
痛む臼歯が輪郭を際立たせ
退屈な人生に接続された骨の匂いに納得
本当は危険な科白を求めている
憂鬱な振動でダダイズムの嘘が現れる
誰かが奏でる滅びの旋律に流されて
毎時20分に横切る空想の羊の群れから
わずかな希望を掠め取るも やがて粉々に
この身の形も滑らかに薄れていくのだろうか
乾いた部屋には壊れた電気椅子
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