振り子の爪あと/田島オスカー
大好きな夢を最近見なくなってしまって
哀しくなっているところに
隣の部屋から汚いビブラートが響いてきた
あたしは焼酎に負けて泣いている
どうしてもあの夢が見たくて
毛布の中で拝むように手を組む
煙たい手のひらが恨めしくて
酒にほてったほほが少しも可愛くなくて
あたしは三つ編みのまま泣いている
大好きな声が聞こえなくなって
眠れないでいるところに
指先から煙草が転げ落ちる
焦げてしまったのは情報誌
泣き出しそうな自分ではなくて
あたしはそれが哀しくて泣いている
結局泣いてしまうあたしは
何ものにもかえがたいと思ってしまう
そういうものをすべて爪先で転がしてきた
罰を与えるのは今も昔も神様だけれど
ばちに当たるのはあたし自身だから
欠けた月の端のほうで
一生眠って暮らしていれば
きっと素敵な夢だけを見ていられる
泣かないことが素敵だとは
思わないけれども
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