懐かしの詩/千月 話子
身長二十メートル
今日 この街を出て行きます
密集した家々 棒のような高層ビル
張り巡らされた電線と
いつか 底抜けの地下都市
猫のように しなやかに
クネクネとかわして行けず
タロくんの人型は
ギクシャクした人間
スピーカーから聞こえる
涙声の『さよなら』と
重なった『サヨナラ』
静かに息を吐くように
大きな街で育ったタロくんは
大きな涙をこぼさぬように
大きく息を吸って
無秩序に流れる煙突の排煙を
一気に吹き消していく
成人の祝宴は 歌い踊るでもなく
ただ、ただ 一瞬澄んだ
空を見上げた
子供の頃に習った切なく美しい詩のままに
あだたら山から見えるお空は
まだ そこに ありますか?
きみは目指す そして
ずんずん ずんずん
昔話のあるだろう 風景へ
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