夜をゆく子/木立 悟
 




見えないものが
見えないものに重なり
現われる
その一瞬を見つめている


灯りのまだらは遠去かり
森をふちどる雲の明るさ
なだらかな蒼を響かせて
音は音を手招いている
夜へ夜へ手招いている


弓を握る緑の影が
池の上にゆらめいて
少しだけ黒に染まっている
うすく途切れがちの
現われては消える水紋に
少しだけ細く巻かれてゆく


積もれない雪
溶け残る雪
熱のない水
地に輪を描き
葉と葉のはざまを埋める音の火
灯りより明るく水を照らす


雨の緑
甘い匂い
橋は朽ちて
遠まわり
雨の緑
空へつづく
音の火の列
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