スティーヴ・ゴッドの短くも幸福な人生〜神業とかみさんの日々〜/クリ
なかったのかもしれない。いや、彼の思い出の中、であったのか。
「俺はピアニストになりたかった」六本木のヘンリーで飲むと彼は決まってそう言っていたものだ。
「俺はドラム譜以外はからっきしダメなんだ。ああ、音符はハイスクールのときにやりかけた。Cから始めて、Fで終わっちまった。F#で躓いたのさ。
「ギターもベースも、ラッパも自分で運べるだろ。でもドラムは一人じゃあ無理なんだ。素人はよくスティックとキーだけ持ち歩いてたりするが、ありゃ最低さ。フルセットを運ぶ筋力を身に付けなきゃプロとは言えないんだ。
「俺のタムが徐々に増えていったのは、俺が筋トレを重ねた結果、なのさ。音楽的な必要に迫られて、じゃ
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