幼い手つき/石畑由紀子
父の指にあわせて
ピアノがアカペラで歌う
大胆なくせに不安げなその歌声が
休日のリビングからご近所にも響いてしまって
父はますます手のひらに汗をかく
父よ
バイエルの14番から
ワルツ・フォー・デビィまでは
これまでのあなたの人生のように
まだまだ長い道のりのようだ
それを聴きながら母は
ひっそりと思い出していた
お見合いしてからひと月後
はじめて頬に触れてくれた時の
あの指先のぎこちなさを
愛しさが伝われば
旋律など気にせずに
ピアノはきっと嬉しそうに歌いだす
いつか父の下で母が甘く歌って
そうして私が産まれたように
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