薔薇の葬列/草風
 
時間や記憶といったものが

脳の細胞と一緒に死んで逝く

日常という砦の中、ゆっくりと無用のものが死んで逝く

長く細い真っ直ぐな畑道を、一団の黒い行列

黒いレースのベール、透けるような夕焼けの空

”誰の葬列ですか?”

「はい、私の一番大切だったものを死なせてしまいました」

列の中に見覚えのある人々

小学校の恩師、初恋の君、若かった父母、静かに発狂した私、

白く美しい棺が誰の手も借りずに、静かに宙を滑っていく

覗き込むと、白いシルクに包まれた紫の薔薇一輪

棺の中は咽返るような甘い香りに満たされて

「さぁ、お歩きなさい。あなたが先頭なのだから」

言われるままに歩き出す夕暮れの道

振り返るとまた、私が先頭の列が彼方から続いている

日常という砦を出、墓地無き葬列は続いていく

死なせてしまったものを弔わんため

甘い香りだけを微かに残して
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