風邪と日常/かや
 
兎の心臓の動きをする
くびすじの隣で
粥が水を含みすぎることを
心配している
おんなは
せわしい寝息に
少し欲情して
見慣れた顔の
見慣れない瞼に
舌を滑らせてみる

欲するのは
じぶん以外の意識と存在
くるくるからまって
ちょうど収まってしまえたら
良い

ふいにおとこの
重なった睫毛が
いつの間にかくっついていて
離れないのじゃないかしらんと
本気で心配になり
まるで彼を哀れむように
涙をこぼしてみたり
廊下に飛び出して
うずくまってみたりする
のだけれど
案の定
おとこはあっけなく目覚めて
セックスしたい
などと言うのだ

おんなが一瞬恨めしげな目をして
粥を温め直しにいくと
近くの小学校で
下校の音楽が流れだし
同じメロディの鼻唄と口笛が
うすく開いたドア越し
ゆっくりと からみあい始める


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