いのち見る者/木立 悟
 



みすぼらしい着物を着た子が
弦(つる)のない弓を持ち
灰と緑の風を見ている
夜の池に浮かんでは消える
銀と金のかたちを見ている


かがやく葉を持ち
誰かが森を歩いてゆく
空よりも木よりも暗いものが降り
水に落ちて光になり
弓を持つ子を明るく照らす


夜をめぐる魚
池に沈めた器に来る月
金に練られた水紋は
岸辺に過去を打ち寄せる
いのちのかたちを見る者の
哀しいさだめを打ち寄せる


森のなかに遠くぽつりと
色のない影が立ちつくしている
池を二重に囲む灰緑
濃と淡をくりかえし
夜のほとりを迷う波
白と黒の生きものの渦


森をすぎゆく葉の音を
銀は静かにふちどってゆく
目を閉じて浮かぶかたちに手をさしのべ
まばたきのたびに薄れゆく背に
片方の目を分け与えるとき
源はけだものの姿をして
子の首すじに触れてゆく








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