雪になるかも/蒸発王
八本の足を折って
“お暇を頂戴致します”と
挨拶にきました
蜘蛛は一生の内で
紡げる糸の量が決まっています
もしかしたら
死ぬかもしれない
と
家蜘蛛は言いました
その宵は
家蜘蛛の好きな
イカの燻製を肴に
二人で
少し苦い酒を飲みました
夜半
家蜘蛛は
小さな尻から
白銀の糸を発射して
夜雲の間に引っ掛けると
するすると
雲間に上がって
行ってしまいました
不謹慎かもしれませんが
私はいくら
雪が降っても良いのです
あの子が生きて
帰ってきてくれれば
いくら雪が降っても
良いのです
見れば
今宵
群雲の写す
蜘蛛の巣は
西の空で
押し留めた雪をパラパラと
散らしています
この東の空に掛かった糸も
西からの揺れを受けて
大きく軋んでいます
きっと今に
今夜は
雪になるかも
しれません
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