(幾つもの)ある午後/石畑由紀子
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忘れていたことすら忘れていたのに
嗚呼、忘れていたことを思いだしてしまった
思いだしてしまったことをいつかまた忘れられるだろうか
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花の絵を描いていた。
ら、
絵 よりも
パレット のほうが
綺麗な色彩になっていて
ほおづえしながら なんとなく見とれて
ちょっと すねた。
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「夜遊びを昼間のうちに済ませてしまったクリムトは
未だ恍惚境の余韻に浸るモデルの股間を前に
今度こそきちんと仕事にとりかかる
デッサンは洞察力と勢いが命だから、と
モデルのしどけない眼差しが正気に
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