月のもの/石畑由紀子
 
台所で玉子を割り
箸で溶いて
フライパンでバターとからめた


食卓であなたと向かい合い
それを口にふくんだ時 はじめて
涙が溢れてきた
  (お前も卵にはなれなかったのだね)


レースのカーテンが風を孕んで
踊っている


欲情のその先に
あの小さな手のひらがあると信じていた
あなたを愛している
それだけ
ただそれだけでいいというあまりに膨大な
かなしみの淵に今
立っている


十五夜
月のものがやってきた私に
あなたは静かに入ってくる
卵を抱けなかった血液を
いつくしむように




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