月を想うように 君を想う/セキグチ アツ
つもりも なく
わたしはただ 冷えたつま先を浸してゆく
濃い灰色を 見つめる。
真剣に。
少しだけ 投げやりに。
こごえた 空気に満たされた閉塞空間に その中に
わたしの冷えたつま先と あなたの冷たい指先と
少しだけおよぐ マニキュアのにおい。
それらは全て この狭い部屋の中に在る 筈なのに
わたしにとって とても遠い。
月を想うように君を想う。
届きそうな程 近くに 感じられて
けれど 決して届かない
こごえた空気を ぬくめることなく
色を与えるほどの 力もなく
ただ
ここに静かに 息づいている わたしたちは だから
きっとそれぞれに 月と地球程に離れているのだろう。
ひえた指先が冷たい指先に引かれて
温かなあなたのからだが わたしに触れても
それでもなお
色を持たないあなたを 月のように
想っている と知ったら
あなたは 怒るかしら?
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