月の郊外列車にゆられて/馬場 こういち
 
冬の朝
古い郊外列車に乗って
まだ仄暗いモスクワの駅を発つ

灯りのまばらな町並みを抜け
列車は広い雪の大地を走る

後ろの車両から入ってきたジプシーの子が
スーパーの袋を両手に持ち
長身の男が奏でる
アコーディオンに合わせて唄っている

月のヒカリはキラキラ唄うよ
 夜の波間に星のヒカリ
  ゆらゆら
   ゆらゆら浮かんでいるよ
    月のヒカリはキラキラ唄うよ

「こどもにあんなことさせるなんてサイテーよ」
隣りに座っていた女がつぶやく

月のヒカリはキラキラ唄うよ
 夜の波間に星のヒカリ・・

雪野原のむこうに
青白く広がる稜線は
海のような空だった

北西へむかう郊外列車は
広い雪の大地を走る
 
       

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