月の郊外列車にゆられて/馬場 こういち
冬の朝
古い郊外列車に乗って
まだ仄暗いモスクワの駅を発つ
灯りのまばらな町並みを抜け
列車は広い雪の大地を走る
後ろの車両から入ってきたジプシーの子が
スーパーの袋を両手に持ち
長身の男が奏でる
アコーディオンに合わせて唄っている
月のヒカリはキラキラ唄うよ
夜の波間に星のヒカリ
ゆらゆら
ゆらゆら浮かんでいるよ
月のヒカリはキラキラ唄うよ
「こどもにあんなことさせるなんてサイテーよ」
隣りに座っていた女がつぶやく
月のヒカリはキラキラ唄うよ
夜の波間に星のヒカリ・・
雪野原のむこうに
青白く広がる稜線は
海のような空だった
北西へむかう郊外列車は
広い雪の大地を走る
戻る 編 削 Point(3)