たとえようのない/七尾きよし
 
んだ柿渋のような色をした両の手のひらでぼくの首元をつつんで
いいのよ と言う。
あれよという間に君はぼくのふところにモグリコンデ
 いつもの瞳をぼくに向けて
  また、いいのよ と言う。


たとえようのない。

君の両足がぼくの両足の甲の上にあって二人は抱き合いながら
 せえのっと同時に片足ずつ歩を進める
一歩ずつ
 一歩ごとに君のからだの重みを甲に受け止めながら
 ぼくは君を抱きしめる
ガラパゴスにいる前にしか歩けないカニのように
 ぼくたちは一緒に歩く。一歩
 また一歩
 右へひだりへとゆらゆら あぶなげに
 でも着実にぼくたちは歩みをともにする
二人はお互いのおかしなさまを見て笑う
 ぼくは笑う
 そしてきみが笑う
 大きな口をあけてガハハハと二人は笑う
息子がひょこっと現れて
 パパとママ ペンギンみたいだって笑いころげ
  ぼくはたとえようのない幸せのなかに自分を見つける。

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