美術館/馬場 こういち
 
トレチヤコフの旧館 とある部屋
恐ろしい人間の顔が
剥製のように並んでいる
息の詰まるような叫び声が
四方の壁のむこうから
湧き上がる

真夜中の
灯りの消えた屋敷の中を
たったひとり
手元の懐中電灯を頼りに歩くような
張り詰めた意識と距離感で
その絵画の目線に対峙するといい

大きさではない
年代ではない
まして一部の色や線などでは

おぞましい憎悪の影に
一瞬心臓を掴まれ
ことばは吹き消されてしまう

恐ろしい人間の顔が
剥製のように並んでいる

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