真冬に百合、白ければいいのに。/佐々宝砂
博士。あなたがあちらに行って何年になるのでしょう、
数えてもしかたないけれど。
あれから、人間は全く進歩しておりませんが、
技術は立派に進歩しております。
治るようになった病がたくさんあります。
昨日できなかったことが今日はできるようになってゆきます。
そうした日々です。ええ、いくらかは進歩しています。
思想も哲学も、いくらかは。おそらく。
博士に百合を送ります、花屋で買いました。
赤い百合です。アマリリスとかいうらしいです。
私は白い百合がよかった。
単なる白い百合。真夏の野山に咲く、野生の百合。
博士のもとに届くのは、本当はそういう百合でしょう。
私は息を
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