忍び雨/ミキ・オキタ
梅雨の雨は
日が沈む頃になって
もう堪忍袋の紐が切れたと云わんばかりに降りだすが
秋の雨は
朝目を覚ましたときから降っている
こんなわたしですみませんと
かなしそうに
申し訳なさそうに肩をちぢこまらせて
降っている
そんな朝は満員電車もしずかだ
誰もが息をひそめて今日降りかかる悲しみの量と手元の傘の大きさを比べているようだ
ふるえる傘先のしずくがくつの泥と混じってみにくい
たいして親しくもないひとのお葬式のあとのように
くつの中までつめたくしみこむ秋のよどみに鼻をすする音しかきこえない
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