墓碑銘/石畑由紀子
時々
理由もないのに ふと
立ち止まりたくなる
その時
そこには
透明な人の透明な碑があって
私たちは
それとは知らぬまま
刻まれた言葉を
心の指先でなぞっている
急に泣きたくなったり
遠いいつかを想ったり
背筋が伸びる気がしたり
するのはだから
そんな
風のふく午後
そして
そうとは気づかぬまま
指先の言葉を胸のポケットにそっとしまって
歩きだす
透明な碑は
無言の語りべとなって
時々
理由もないのに ふと
独りじゃないような気がするのは
そのせいです
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