プールの底/はなびーる
 
夜中、子どもの歌う声で目が覚める
「ほら、きこえるでしょう」
彼も寝床から起き上がったのでそう呟く
彼はしきりに右耳に手を当てて聴こうとしている
「聴こえない」
横になったままの私は
彼の表情を窺うことが出来ない

         (こわれかけたあなたの巻貝)

カーテンの隙間の空から
月の光が差し込んだと思うと
私たちの部屋はプールになっている
水色の奇妙に明るい二十五メートルのプール
床や壁には光の網が
ゆわゆわとたゆとうている
子どもの歌声がどこからともなく響いている
見上げると水面はとても澄んでいて
黒々とした空に
檸檬の月と、寄り添うような赤い戦い
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