この世の老人/大小島
 
ていた。

老人は続ける。そして、ほら、その隣にいるのが私の存在しなかった子供たちだ。

子供たちが立っている。わたしたちには、子供なんて一人もいなかったからなぁ。

僕はふたたび、老人に質問する。
つまり、ぼくもあなたの読んでいる本の登場人物なのですか?
老人は笑う。
そうじゃない。そうじゃあないよ。言ったはずだ。私が読んでいるのは、本じゃないと。活字じゃないと。私の世界は無数にあるし、無数に聞こえるんだよ。いままさにある世界でもあるし、かつてあった世界でもある。そしてだからこそ、まったく新しい世界でもあるんだ。
噴水が、今日一番高く噴き上がり、老婦人は僕の隣から消え、子供たちはどこかに去り、老人は、また動かなくなる。

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