この世の老人/大小島
ある晴れたなつかしい夕焼けが染める公園の大きく枝を広げた、10mはあろうかと思える木の下のベンチに老人は腰かけ、手には赤色の、カバーの取れたむき出しの本を一冊。
背を丸めて、まるで自分の視線で、本の紙に穴を開ける実験をしているかのように、読んでいるのかも分らない、一点を見つめている。本からは、真っ青なブックチャームが一本、ベンチの下に垂れている。
人は行き過ぎる。大きな公園なので、駅のほうへ、老人の前を。アスファルトの上を、スーツ姿の人やら毛皮を着た女やら帽子をかぶった老婦人やら、ギターを持った若者やら、鳥かごを持った大学生やら、そしてなにより、ステッキを持った老人と同じような老人がたてる、地
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