風のように流れていった/霜天
冷たい言葉を背からおろした
砂浜だった、長い一日の直線だった
大切なものと、てのひらにあるものは
遠い日でも暖かい
名前を思い出すよりもはやく
風のように流れていった
ふりかえるよりは
前を見たかった
温かい石を手に取れば
夕暮れはどこも夕暮れだった
帰ってくる、そう決めて
歪んだ円を描いては、腰をおろす
手を伸ばせば誰かにさわれる
振り仰げば水の落ちる音
揺れ続ける曲線を、細い指先でなぞっていけば
昨日も今日もここにあって
いつだって明日になりたかった
いつの日も、ここでも
風のように流れていった
頼りない足取りだった
憶えられない足跡だった
ため息が吹けば崩れそうな橋にも
届くのなら、届いていきたかった
このまま、眠ってしまおうか
誰かの枕で、支えられているような
沈んでいきそうな潮騒の声
誰かの温度の残る背中で
消えていく歌を受け止めて
その日も冷たくなる足を
きっと風のように流れていける
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