それらは全て解っていたことだ/麻草郁
感想標本の不安夢から醒めると
巨大な甲虫が窓の外に駆け出す
君は羽毛に覆われた本を持って
電波塔の近くまで僕と散歩する
それらは全て解っていたことだ
椅子の上で男が訴えているのは
もう少し天井を下げろという事
君は「ひどいものだと」呟いて
映画館の裏で僕と唇をあわせる
それらは全て解っていたことだ
寂寞に血の滲むほど手を握って
鼓動に耳を澄ませたのは昔の話
僕はこれから来る世界を祝して
君と手を繋ぎ現身の終焉を見る
それらは全て解っていたことだ
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