映画館の恋人/蒸発王
浅草の古い映画館が
今年いっぱいで閉館になる
その知らせを聞いたのは
年も暮れかかっている師走だった
『映画館の恋人』
祖母は映画好きな人だった
忙しい母に代わって
私の遊び相手になってくれた祖母は
よく私を映画館へ連れていった
浅草の古びた映画館へ
中に入ると
赤絨毯のエントランス
上階へ伸びるエスカレーター
吹きぬけの天井には
見上げる
巨大なシャンデリア
大理石を模した壁が
エスカレーターに流されていく
登りきれば
劇場はいつも口をぱっくりと開けて
訪問を待つ
今のように
ふかふかの椅子ではな
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