60歳のラブレター/逢坂桜
 
まいます。

二人で借りたせまいアパートに入った最初の日、あなたと二人並んで座って、あなたは白いハンカチを私の頭に広げてくれた。

それが、私の花嫁衣裳でした。

白かったハンカチが黄ばみがかってきましたが、いまも折に触れて、鏡台の抽斗から取り出します。

涙を拭いたことも、いっそ捨ててしまおうか、と思ったこともありました。

気の強い二人で、喧嘩が過ぎることもありましたね。

可愛げのない女でごめんなさい。

不出来な妻ですみません。

だけど、あなたの妻がつとまるのは、きっと、私だけでしょう。

割れ鍋に綴じ蓋の私たち。

どうぞ、これからも末永く、よろしくお願いいたします。

最愛のあなたへ。

                  あなただけの愚妻より。



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