迷子/太郎冠者
 
猫が歩き回るけど
ちいちゃんは自分がどこにいるのか
わかります
お母さんが携帯で
「どこにいるの?」
て聞くと
「白い猫の近く」
て元気に答えます
するとお母さんは
「八百屋さんね!」
て言ってぱたぱた迎えに来てくれます

ちいちゃんはとても利発です
町の野良猫がどこに何匹いるか
たくさん知ってます
尻尾のない三毛猫は
斉藤君が「念のかたまり 念のかたまり」と
昼間っから叫んでいるところ
黒猫がたまるところは線香臭い林檎をくれるお寺の近く
うじゃうじゃ猫がいるとこは猫屋敷の清水婆
砂遊びで汚れた手を耳のない猫でふいたりするのは小さな公園
ちいちゃんと猫は近くて遠い友だちです

だけど保健所の人たちが
雪がちらつく間に
猫狩りを始めました
網や罠をはりめぐらして
廃屋の溜まり場から追い立てて
斉藤君は精神病院
住職さんは棺桶に
清水婆はホーム暮らし
八百屋はきついお叱りを
砂場はコンクリートで固められ
ちいちゃんは迷子になりました

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