ぎゅうと/なな子
こうしてこたつにはいって
温もっていると
手の中からこぼれていったたくさんの温もりまで
わたしは思い出してしまう
抱きしめて背中の匂いを嗅いだ
わたしの小さな茶色の犬
彼は両手一杯の温もり
両手一杯の温もりは、四本足で駆けていった
彼の温もりは もうない
またね、と笑って
握った友人の右手
片手一杯の温もり
片手一杯の温もりは、電車とどこかへ行った
あの右手は もうない
わたしのぎゅうと回した手におさまる温もり
わたしのすくいあげる温もり
頭をくしゃくしゃにする温もり
ああ、もういっそこの両手が
バカみたいに長かったら良いのにね
もうぎゅうとぎゅうと 地球ごとぎゅうと
抱きしめて
抱きしめて
もうどこにも行くことはないよと
けれども
わたしには、
わたしサイズしかないのだ
それが悲しくてさみしくて
わたしはこたつで丸まって
こんな寒い冬の夜中に
こっそりひとりで泣くのです
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