水中花/キット
身体という身体に付着した夜の気配の中には一羽小鳥が棲み付いていて一鳴きしては夏の
音を待っている。鈍色の血の替わりに巻かれた絹のガーゼはこの冬の半ばに来て擦り切れ
ていたが。
机上に在る水中花(注:夏の季語、水を浸したコップなどに造花を入れたもの)は真夏の氷だが私はいまオンザロックにして溜飲している。この季節
にはけして似合いはしないけれど誤りでもないだろう。身体という身体の狢(注:アナグマの別称)から湧き出
る夏へと向うあの力の中に在る一鳴きを閉じ込めて、力の感じさせぬ弱々しい部分を夾雑
物の中でこの冬の中に永久に閉じ込めたかった。
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