愛しいひと/恋月 ぴの
 
愛する事は容易いけれど
愛される事は難しい
肩触れ合うほど僕が君の傍にいても
うなじの後れ毛に見とれていても
僕の愛に君は気づかない


たとえばそれは硝子越しの口吸い
感じるはずの柔らかな温もりは
ショーウィンドウの冷たさに遮られ


愛とはひとりよがりの雪景色
はらはらと身悶えては
静かに散りゆきてはらり


愛を与える事は容易いけれど
愛を受けとめる事は難しい
背を向けた僕の無常に涙を流す
君の嗚咽は切なく悲しくとも
僕には君の愛を受けとめる事は出来ず


たとえばそれは冬桜の美しさ
凍てつく浮き世を堪え忍び
人知れず墨色の渓谷に咲き乱れ
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