戻れない夜/ナオ
 
廃墟に近づく夜空け前
駅前広場は声をひそめたまま
ふたたび静寂を抱えはじめた
闇に消えた男を
まだ見つけられない

煙草の煙こころ細く
呼吸は白く立ちのぼっていた
階段のわきにうずくまり
見つめる先を
受けとめられない
わずかに火はにじむ
隠れきれなかった面影
さがすなよと
背中が小さく嘘をついた

急にいなくならないで
熱を帯びた
涙にはならなかったが
歩を進めてよりかかった
髪を滑る
あたたかくなじむ匂い
シャッターに
押さえつけた衝動
震えだす鼓動
はがされていく
平常の顔
両手の中
たちまち私は迷子になる
世界の果ては
遠くはてしなく
求めながら ずっと
ここにいなくてはならないと
思っていた共生
ずっとひとりだった

そばにいられるなら
それだけでよかったのにと
薄い永遠
失速した錯覚

この夜の冷たい月
私とあなたのいとしい人たちに
偶然よろめいた心
ただ笑いあえた日々に
慎重に築きあげた安全な繋がり
道をはずれたキスの嵐に

涙を流してさようならといった
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