無防備な女/かおり
 
と
 会うたびに抱き合いながら
 喘ぎながら、
 わたしは
 冷静にも
 その女の
 喘ぎ声を思い出していた。
 無防備な声を出すその女に
 ほんとうの わたし は
 どこかでうらやましさを感じていた。
 その人に、
 すべてに、
 なにもかも に、
 無防備になれず、
 押し殺して生きていた。
 遠くばかりを見つめて
 押し殺して生きていた。
 抱き合いながら
 その背中に回した手には
 力をこめることも、なかった。
 やがて迎えた別離の中で
 わたしに残されたのは
 不思議なことに
 その女の、声 だった。
 わたしにはない
 その女の、声 だった。
 できるならば
 わたしも
 あんな無防備な女になりたい
 と。
   女は、
   あの無防備な女は
   いまどこにいるのだろう。
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