列車/アシタバ
 
隣を歩いている人の顔に
 見覚えがあった
 しかし何故だかここでは話しかけたり
 じっと見つめたりすることは
 禁じられているように思えたので
 前を歩く人の足もとのみに目を落として
 周りは見ないで歩いた
 ひそとも話し声はなかった
 ただ低くわだかまった恨みを
 天に伝えるもののごとく
 足音があたりを満たしていた
 屍衣めいた襤褸を
 私もいつしか身に纏っていた

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