列車/アシタバ
午後、人気の失せた列車のなかに
男が眠りこけている
その影が伸びたり縮んだりしている
場違いに鮮やかなドレスが
その影を踏み散らしていく
にわかに騒がしさが戻って来そうになる
しかし女は窓の外へ
舞いあがって行った
列車はもう長いこと止まらずに進んだ
そもそも走り出したのを覚えていないほどなのだ
露出不足の像のように曖昧に
隅のほうにうずくまっている男もいる
こちらに向けた眼窩は
うつろな暗い空洞でしかない
ぶつくさと何事かつぶやいている
誰かと会う約束があったような気がする
とても大事な用事があったは
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