首吊り族の死に方とその歌/岡部淳太郎
 
恵から来ている
知恵こそは
精神よりも 肉体よりも 大切にしなければならぬ宇宙の財産
彼等は何よりも知恵の純潔を願った
首を吊って死んだならば
首より下にたまった生活の毒が
知恵の源である頭部にまでまわることが出来なくなる
少なくとも頭部の毒の含有量は
死ぬ直前の薄さで保たれることになる
首吊り以外の死に方ではこのような栄光は得られない
だから彼等は首を吊る
知恵を大地に還すことこそが
自らを育んだ大地への最大の感謝になることを信じて

彼等の住む地の下には
いくつもの切り離された頭が眠っている
頭たちはいつまでも大地に知恵を供給しつづけている
自ら死を選んだ幸福な霊
彼等は土の中でうたう
喉ではなく思念を使って
切断面の縄の痕を気にすることなく知恵のある歌をうたう
その旋律は大地の中心部まで届く
そしていつの日か人の知恵を蓄えて
大地は自らうたい始める
南の大地は熱い
人びとはおもむろに動き出し
名誉ある孤独の死を選ぶ



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