「鏡の中の紅い花」/服部 剛
 
せた互いの手の内に細い茎を握り
ふたりの拳の上に咲く紅い花をみつめると
口を空けた恍惚(こうこつ)の男の仮面は地に落ちて
柔和な微笑の青年の仮面は地に落ちて
気がつくと仮面の下に浮かぶお互いの顔は入れ替わる

ふたりは同時にゆっくりと立ち上がり
声も交わさずにすれ違う
一輪の紅い花をそれぞれの手に握って 

口を空けた恍惚の青年と
柔和な微笑の男は
お互いに背を向けて離れながら
満たされた面持で歩み続ける

いつのまに

それぞれの手に握られていた
紅い花は消えていた 




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