ネリリしたりハララしたり/佐々宝砂
はない、と火星の人類学者は考える。でもケンカしないし認め合っているし一緒に遊ぶし、それでいいじゃないか、何か不都合があるのだろうか、いやなんにもない。顔をあわせるたびののしりあい、そこらじゅうにとばっちりだの迷惑だのをかける例の彼女の家族に比べたら、ずーっといい。しかし彼女の家族は、なにかにつけ「私はおまえが可愛い」「私は両親が大切だ」と口にする。火星の人類学者にはそれがまた不思議だ。
人間とはわけのわからんイキモノだと火星の人類学者は思う。しかし、火星の人類学者もまた人間なのであって、火星の人類学者はそれを自覚している。
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実は火星の人類学者は片思いをしている。も
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