ネリリしたりハララしたり/佐々宝砂
 
火星の人類学者は、毎日毎日「お断り」ばかり繰り返している。「珈琲に砂糖は?」「いりません、ブラックです」「クリームは?」「いりません、ブラックだと言ったでしょ」というたぐいの「お断り」だ。甘いのが嫌いな人間にとって珈琲の砂糖は難行苦行のもとでしかないのだが、甘味好きにこのしんどさはわからないだろう。もちろん逆もまた真だけれども。

人付き合いが苦手で挨拶すらめんどくさがるような火星の人類学者にとって、人間関係の九割は重荷以外のナニモノでもない。もっとも火星の人類学者ですら孤独を感じることはあって、火星の人類学者を人間的たらしめている残る一割の人間関係がふと途切れるとき、火星の人類学者はとても鬱
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