海になる/岡部淳太郎
 
私は海になる
ただひとり あなたのために私は
自分を分解して個体の部分をすべてぬき取り
液体だけで構成された海になる
父になることしか出来ない性の宿命
それでもかまわず
私は母のような海になる
私は精液のように不透明で 濁っているかもしれないが
汚れてはいない
私は誰にも汚されない海
自らの液体の性質だけの閉ざされた港
私は出来る
あなたを叩き割り 打ちすえて 翻弄して 破壊すること
あなたを静かにたゆたわせ
あなたを優しく眠らせること
あなたは何も証明しなくても良い
木の葉のように揺れていればそれで良い
私の中には大勢の魚が住んでいて
その生命という名の力は私
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