恋をした/雨女
 
それは
突然届いた手紙
差出人の名前はなく
やけにさっぱりとした美しい文字で
私の名前がそこにあった

あなたに恋をした

たった一行だけ
そう書かれていて
顔のない差出人が
それをポストに投函する瞬間を思い浮かべながら

だれですか
こんないたずらをするのは

私が
ひとりぼっちだということを
あなたは知っているのですね
だから

からかうためにか
憐れんだからか

手紙を引き出しの奥に
私はいつものように散歩する
空がいつもより少し明るい
街路樹の銀杏がまぶしい

あなたは
だれですか

思い切り深呼吸すると
季節は思いのほか冬に向かっていて
胸の奥に新しい空気がしんとしみ込んでくる
足下の小さな草花までがはっきり見える

恋をしたのは
私の方です

顔のない差出人に
不確かな現実に
鶏が先か、卵が先か、なんて
どうでもいい

恋をしたのは
私の方でした
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