愛が潰えた日に男は自画像を描く/恋月 ぴの
− 愛は確かに潰えた
男の心に残っていた僅かな温もりを奪い去る良く晴れた或る冬の日の未明 月光に射貫かれた眠れぬ夜に 愛は国道246号線池尻大橋近くの交差点で潰えた 間断なく走り去るヘッドライトは流れる星のしがない独白 手の届かぬ想いの虚しさに堪えかねたのか 襤褸切れのような無残な姿で愛は道路脇にその身を横たえ 心の奥底より搾り出した絶望の呻き声をあげて愛は確かに潰えた
− 男は自画像を描く
イーゼルにF6号のカンバスを乗せ 哀しみに震える左手で手鏡を握りしめ 鏡の向こう側に居る愛の潰えた男の顔を見入る 不揃いの睫 泣きはらした瞼 歪んだ鼻柱と汚らしい無償髭
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