回想/しらいし いちみ
ていたに違いないと思う。
エレベーターに乗って扉が閉まりそうな時に目が合った。
父から「お前は一人か?」と訪ねられた。
予想もしない質問に戸惑って思わず小さく「うん。」と頷いて答えた。
帰宅しながら離婚して経つ年数を数えてみた。
その二日後に父は母の所へ急ぐように行ってしまった。
父が命のぎりぎりに自分の事より私の事を心配して放った一言だったと思う。
安心させない曖昧な返事に今でも後悔している。
だけどその父は私の心の中に沢山の物を置いて行ってくれた。
私は、この父母に生まれてきて良かったと胸を張って言える。
発症して四ヵ月半の闘病生活を手記に残しているが、読み返しながら
在りし日に思いを馳せる。
2005/3/23物書き同盟掲載
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