「ぶらっくほーる」/shu
ライ重くなったもんだからおもわず手を離しちまってそいつはコンクリートにゴトリと落ちた。ああしんぢまったのかしんぢまったのかとおれは別に悲しくもなくおもむろにパターをとりだしてコンとばかりにそいつを排水溝の穴に転がすと思いのほか簡単にすぅと音もなく吸い込まれて消えちまった。途端に肺が妙にすーすーして夜の冷気が通り抜けておれの手は青白くだんだん透き通っていくではないか。見あげるとお月さんはそのまま。おれは手すりに駆け上がり手を伸ばした。あいつのかわりに持って帰らなきゃおれが死んぢまうッとしゃにむに手を伸ばしているうちにケイタイが鳴るので出ると彼女の友達からだった。
「あんたドコにいるの?わかってんだからね」
え?どこにいるってわかんないよなに言ってんだよおれはストーカーじゃねえよおれはおれはただ捨てにきただけだ捨てにきただけだおれはパターを振ってお月様を突っついてはずそうとしているだけだこうしてこうしてあの月をちょいと横にずらせばその裏側に黒い穴があっておれはそこから帰れるのだ帰れるのだ。お月様を持って帰れるのだ。
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