女優/むらさき
 
  演じるのにはどうしても
  ナイフとフォークが必要なのであった

  手づかみで食べた赤いカルネの味
  女優は決して忘れない
  目をつぶれば鼻を突らぬく
  沈黙の香り
  その記憶だけを胸に秘め
  重い銀の食器をもちなおす
  女優
  君の舞台はこのテーブル

  演じろ!
  カルネの記憶を消しながら
  
  君は赤い絨毯に憧れた
  デートリッヒやガルボみたいに
  死んでも生き続ける女になるって
  口に入った髪の毛も払わずに
  誓った
  古い写真を前にして

  君は
  赤い絨毯に憧れて
  銀の食器を
  口に運ぶ
  
  紅がとれて見えた君の唇にある小さなホクロ

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