女優/むらさき
演じるのにはどうしても
ナイフとフォークが必要なのであった
手づかみで食べた赤いカルネの味
女優は決して忘れない
目をつぶれば鼻を突らぬく
沈黙の香り
その記憶だけを胸に秘め
重い銀の食器をもちなおす
女優
君の舞台はこのテーブル
演じろ!
カルネの記憶を消しながら
君は赤い絨毯に憧れた
デートリッヒやガルボみたいに
死んでも生き続ける女になるって
口に入った髪の毛も払わずに
誓った
古い写真を前にして
君は
赤い絨毯に憧れて
銀の食器を
口に運ぶ
紅がとれて見えた君の唇にある小さなホクロ
戻る 編 削 Point(1)