吐きたい吐きたいと思いながら/佐々宝砂
 
ある吐き気はおさまらない。
なによりまずいのは、
私の病気の特効薬が何か私が知ってるということだ。
私はいつそれに手を出してしまうことか。
考えるとこわい。
その劇薬の名は信仰という。
本当に本当に私が死にそうなとき、
そのときまで、私は絶対この劇薬に身を浸したくない。
ちょいちょいと徒に手を出すことはあるにしても。

肝臓をついばまれるプロメテウスは幸福だったか。
肝臓は強い臓器だ、沈黙の臓器だ、
ついばまれても黙っている、ついばまれても再生する。

まだ大丈夫。
私の肝臓は再生する、
まだ劇薬は要らない。
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