30/大小島
 
赤い髪をした女の子が近寄ってくる
手にはちいさなかばんを持って。
そのなかから手にとってぼくに見せるのは
お菓子でも、お金でもなくて
ちいさなちいさな言葉の書かれた紙
昔、希望とかyesとか書かれた紙があったけど
そんなものはとっくに見なくなっていた。
昔、ぼくが生まれたときにはあったけど
育った頃にはなくなっていた、小さな紙。

『ねぇ、その紙はどうしたの?』
ぼくが女の子に聞くと
『拾ったの』って答える。
『どこで拾ったの?』
女の子は答えない。
『いつ拾ったの?』
答えない。
『それ、どうするの?』
答えない。
『なんて書いてあるの?』
黙って差し出した紙に書かれていたのは
昔書かれていた言葉ではなくて
ちいさな文字で
「なくしたもの」
『これなんだろう
ね』って
声をかけようとしたら
女の子は
後ろを向いて帰っていった。
30メートルくらい離れた女の子の洋服は
真っ赤だったから
赤いちいさな塊が歩いてるみたいで
きれいだった。

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