「鬼の実を喰らう」/shu
不在となったおれの胸の空(くう)に
ひとつの透明な実が生った
痛んだ言葉の残骸の中で
実は紅くなろうとすればするほど
その身を透かし
艶やかな肌を揺らしている
もう じっとしていろ
そのままでいい
自ら薄皮を剥いで
その自らの熱さに爛れた肉を
差し出すその触手に
俺は沈黙の愛撫で
応えるしかないのだから
繰り返し波打つおまえの鼓動を
この空の広さ一杯に感じながら
おれは 待とう
おまえの透明な触手が伸びて
おれの心臓に絡みつき
根付く歓喜の瞬間を
おれの血を吸って
おれのいのちに食らいつけ
真っ赤に実った
おまえの膨らみに
おれは身悶え
狂おしく抱きしめるだろう
そうして
おれはおまえの芳醇な香りを放つ熟れた肉に
慈しむように
歯を立てるのだ
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