ボージョレ・ヌーボー/恋月 ぴの
 
  テーブルの上にはワイングラスをふたつ 仕事の帰りがけに買ってきた今年収穫された葡萄で作られたワイン ボージョレ・ヌーボーの栓を開けよう 僕の他にこの部屋には誰でも居ない 君が頬杖を突いて物思いにふけったり 誰かに緑色のインクで手紙を書いたり 僕の小さな幸運を自分の事のように喜んでくれた そして時には口を尖らせ不機嫌そうな顔をして 喜びも悲しみもともに分かち合い 僕の向い側に何時も座っていた君の為に 良く磨き上げたワイングラスを用意したから まず君のグラスに注ぐ


  ボージョレ地区のなだらかな丘陵地帯は葡萄の木で埋め尽くされている 不思議な神の血となる ひとふさの葡萄 コルクの栓を抜く
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