待チ人キタラズ/コマキ
非常階段の手摺に凭れて
今日もあの日の夏雲を見ていた
わだかまるのは線香の匂い
墓場で見上げた真白い積乱雲
失ったもの等何も無いさ
多分
待ちくたびれて気が付いたら
青空に沈んでいた
あの夏の午後から指折り数えてみる
日差しに浮かぶ影は大きささえも変わらず
女の喪服の背が目蓋に浮かぶ
どうしてだか君を待つ時
過ぎた景色ばかりを思うんだ
あの日抱きついた背中の不気味な柔らかさ
君に求めること等何も無いさ
多分
君はもう少し待てば来るのだろう
そしたら僕はきっと
一人でいるよりもずっと一人だ
君の眼に映る響かない空の色
非常階段の手摺に凭れて
届かない雲になら安堵して手を伸ばす
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